みなさんこんばんは!
宇宙ビジネスMEDIA編集長の池田 真大(いけだ まさとも)です!

みなさん、宇宙のゴミ問題をご存じですか?
一度打ち上げられた衛星やロケットの残骸が、地球の周りをぐるぐる回り続けている現状があるんです。
この「宇宙ごみ(スペースデブリ)」が増えすぎると、新しいロケットを打ち上げたり、衛星を使ったサービスを提供したりするのがどんどん難しくなってしまいます。

そんな中、日本の宇宙ベンチャー企業アストロスケールが、世界で最も近い距離までデブリに接近するというスゴイ偉業を成し遂げました!しかもこれは、ただ近づいたわけではなく、デブリの状態を詳しく調査し、将来それを安全に除去する技術を確立するための大事な一歩だったんです。

宇宙の未来を守るために、地球からおよそ何千キロも離れた場所で繰り広げられるこの挑戦。なんだかロマンを感じませんか?では、この「ADRAS-J(アドラスジェイ)」という特別なミッションの詳細を見てみましょう!

リリース

持続可能な宇宙環境を目指し、スペースデブリ(宇宙ごみ、以下、デブリ)除去を含む軌道上サービスに取り組む株式会社アストロスケールホールディングス(本社:東京都墨田区、代表取締役社長兼CEO 岡田光信)の子会社で人工衛星システムの製造・開発・運用を担う株式会社アストロスケール(本社:東京都墨田区、代表取締役社長 加藤英毅、以下「アストロスケール」)はこの度、今年2月に開始した商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ、Active Debris Removal by Astroscale-Japan の略)」のミッションにおいて、観測対象のデブリから約15mの距離まで接近に成功したことをお知らせいたします。
これは、民間企業がRPO※1(ランデブ・近傍運用)を通じて実際のデブリに接近した、世界で最も近い距離※2です。

運用を終了した衛星やロケット上段等のデブリは非協力物体※3と呼ばれ、外形や寸法などの情報が限られるほか、位置データの提供や姿勢制御などの協力が得られません。
そのため、その劣化状況や回転レートなど、軌道上での状態を把握しつつ当該デブリに安全・確実にRPO(ランデブ・近傍運用)を実施することは、デブリ除去を含む軌道上サービスを提供するために不可欠な技術です。
ADRAS-Jは実際のデブリへの安全な接近を行い、近距離でデブリの状況を調査する世界初※4の試みです。
具体的には、大型デブリ(日本のロケット上段:全長約11m、直径約4m、重量約3トン)への接近・近傍運用を実証し、長期間軌道上に存在するデブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行っています。

(提供:アストロスケース)

本ADRAS-Jミッションは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が大型デブリ除去等の技術実証を目指し実施する商業デブリ除去実証(CRD2※5)のフェーズIとして実施しておりますが、今回の接近は、JAXAのミッション要求とは別にアストロスケールが独自に実施した事業者独自ミッションであり、捕獲運用直前までのRPOを実証し、将来のミッションに備えることを目的としていました。
具体的には、まずデブリの後方50mの距離から、デブリと同一の軌道上を直進し、その後、将来デブリの除去としてその捕獲や軌道離脱も行うADRAS-J2(Active Debris Removal by Astroscale-Japan2 の略)のミッションで捕獲箇所として想定している衛星分離部(PAF※6)の下方に回りこんで接近、最終的には、同ミッションで対象デブリの捕獲運用開始を想定している距離(CIP※7)にまで接近し、相対的な速度、距離、姿勢を合わせる想定でした。

実施の運用では、これまでの近傍接近の運用と同様に、搭載センサでデブリの3D形状を高精度で測定し、その動きをリアルタイムで観測。
自律的なナビゲーションシステムでそのデータをリアルタイムで処理し、デブリの動きを予測しながら自身の軌道や姿勢を制御しながら段階的に距離を縮めました。
接近や姿勢制御がこれまで以上に繊細で困難な極近距離において、慎重かつ精密な運用により、予定通りデブリの後方50mからPAFの下方約15mに機体を位置付け、一定の時間、相対的な距離と姿勢を維持することに成功しました。
その後ADRAS-Jがデブリとの相対姿勢制御の異常を検知し、自律的にアボート※8を行いました。
結果としてADRAS-Jはデブリから待避しており、安全な状態を保っています。

このアボートは、2024年7月9日に発表した1度目の周回観測時のアボートと同様に、衛星が自身の内部の異常や対象物体との相対距離や姿勢の異常を検知し対策を行うシステムであるFDIR※9が機能したものです。
今回、極近距離での運用中でも安全を確保できること、そして軌道上にて設計通りに自律的アボートマヌーバが実施されたことにより衝突回避機能の設計の正しさを再度確認することができました。

また、7月実施の周回観測では、当該デブリのPAFに大きな損傷が見られないことが明らかになっていました。
8月13日にも再度周回観測を実施しており、別アングルでの撮影に成功しています。
そして今回、15mより近傍に接近することは叶わなかったものの、50mから15mへとデブリとの距離をさらに縮め、その後のアボートも含めて、ADRAS-J2のミッションに向けて宇宙の軌道における運用のさらなるデータを集めることができたと同時に、今後の軌道上サービスの提供に向けてより一層RPOの実績を積むことができました。

これまでのADRAS-Jミッション運用実績
2月18日:Rocket LabのElectronロケットにより打上げ
2月22日:デブリへの接近を開始
4月9日:相対航法(AON※10)と近傍接近を開始
4月16日:相対航法(MMN※11)を開始
4月17日:デブリの後方数百mへの接近に成功
5月23日:デブリ後方約50mへ接近に成功
5月23日:定点観測(1回目)を実施・成功
6月17日:定点観測(2回目)を実施・成功
6月19日:周回観測(1回目)を実施。アボートにより衝突回避機能の有効性を実証
7月14日:デブリ後方約50mに到達、定点観測(3回目)を実施・成功
7月15日:周回観測(2回目)を実施・成功
7月16日:周回観測(3回目)を実施・成功
7月17日:最終接近(1回目)を実施、約20mへの接近に成功。その後アボートにより衝突回避機能の有効性を実証
8月13日:周回観測(4回目)を実施・成功
11月30日:最終接近(2回目)を実施、PAFの下方約15mへの接近・位置付けに成功。その後アボートにより衝突回避機能の有効性を実証

デブリ除去や衛星の寿命延長を含む軌道上サービスでは、除去や寿命延長等の対象となるデブリや衛星に安全に接近、必要に応じて捕獲する技術がサービスの基盤となります。ADRAS-Jでは運用において安全性を最も重要視しており、RPOのどの過程においても、また対象物が予期しない動きをした場合でも、即座に対応するように安全な設計となっています。

ADRAS-J紹介動画:

ADRAS-Jミッションページ:https://astroscale.com/ja/missions/adras-j/

※1 RPO:Rendezvous and Proximity Operations Technologiesの略称。ランデブ・近傍運用
※2 過去に同様のミッションが実施されたか否かを自社で調査(2024年12月)
※3 非協力物体:接近や捕獲・ドッキング等を実施されるための能力・機器を有さない物体のこと
※4 過去に同様のミッションが実施されたか否かを自社で調査(2024年6月)
※5 CRD2:Commercial Removal of Debris Demonstrationの略称
※6 PAF:Payload Adapter Fittingの略称。ロケットと衛星をつなぐ台座
※7 CIP:Capture Initiation Pointの略。捕獲運用を開始する相対位置
※8 アボート:クライアントに対する衝突を回避するためマヌーバを実施し安全な距離まで待避すること
※9 FDIR:Failure Detection Isolation and Recoveryの略称
※10 AON:Angles-Only Navigationの略称。デブリの方角情報を用いる相対航法
※11 MMN:Model Matching Navigationの略称。デブリの形や姿勢の情報を用いる相対航法

商業デブリ除去実証について
アストロスケールは、大型デブリ除去等の技術実証を目指す宇宙航空研究開発機構(JAXA)の商業デブリ除去実証フェーズIの契約相手方として選定、契約を受けて、ADRAS-Jを開発しました。
商業デブリ除去実証は、深刻化するデブリ問題を改善するデブリ除去技術の獲得と、日本企業の商業的活躍の後押しの二つを目的とする JAXAの新しい取り組みです。
この枠組みに基づき、本事業はJAXAから技術アドバイス・試験設備供用・研究成果知財提供を受けて実施されています。
商業デブリ除去実証ウェブサイト:https://www.kenkai.jaxa.jp/crd2/project/

アストロスケール について
アストロスケールは、軌道上サービスの世界的リーダーとして、安全で持続可能な宇宙開発に取り組んでいます。
当社は衛星の寿命延長、故障機や物体の観測・点検、衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去、既存デブリの除去など、多様で革新的な軌道上サービスソリューションを提供します。
2021年3月以降、アストロスケールはELSA-dやADRAS-Jのミッションにおいて軌道上でRPO技術を実証し、軌道上サービスのリーダーとしての地位を確立してきました。
アストロスケールの宇宙機は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米国宇宙軍、欧州宇宙機関(ESA)、英国宇宙庁(UKSA)、Eutelsat OneWebとの先駆的なミッションに採用されています。
宇宙機の定期的な点検、移動、除去、寿命延長のためにより多くの衛星運用者が軌道上サービスを導入し、循環型宇宙経済の可能性が広がり、より持続可能な宇宙の未来が開かれつつあります。
本社・R&D拠点の日本をはじめ、英国、米国、フランス、イスラエルとグローバルに事業を展開しています。
アストロスケールウェブサイト:https://astroscale.com/ja/

あとがき

今回、アストロスケールが見せてくれたのは、宇宙を「持続可能な環境」にするための重要なステップでした。
私たちが日常で使っているGPSやインターネット、気象情報。これらはすべて、宇宙に存在する衛星のおかげで成り立っています。
でも、その衛星が宇宙ごみで危険にさらされるような未来は避けたいですよね。

アストロスケールの挑戦は、宇宙を未来世代に引き継ぐための「清掃活動」のようなものです。
しかも、今回は自律的に動く衛星が安全に接近・離脱できる技術を見事に実証しました。
こうした努力が積み重なれば、いつか「宇宙ごみゼロ」の世界が実現するかもしれません。

宇宙の環境を守るこの挑戦、私たちも応援したいですね!次は実際にデブリを捕獲して除去するミッションが予定されているとのこと。
アストロスケールが切り拓く宇宙の未来、これからも目が離せません!