みなさんこんばんは⭐️
宇宙ビジネスMEDIA編集長の池田 真大(いけだ まさとも)です。
8月23日(月)から9月3日(金)までの2週間にわたり行われていました、名古屋大学による『民間における宇宙利用2週間基礎コース第6回』に参加してきたので体験レポートをお届けします。
基本的な内容は昨年の第5回に参加した時の記事を参照してください。
今回もオンラインでの開催だったので、Microsoft Teamsを使用して受講しました。
ただ、今回は名古屋大学で実施される小型衛星キット実習と衛星開発実験室の見学/衛星通信実験に申し込みました!
この実習のみ、現地での開催になるので、定員が決まっていているので、申し込んだからといって全ての人が参加することはできないのですが、第5回で参加できなかったので今回は選んでいただけたので、感染対策に細心の注意を払い、PCR検査も受け陰性だったので参加してきました!
いざ!名古屋大学!!
20名の参加者を10名ずつAチーム、Bチームに分けて、小型衛星キット実習と衛星開発実験室見学を午前と午後に分けて実施します。
いけだはAチームで小型人工衛星キット実習からスタートです!
Aチームの中でさらに半分に分けて実習が行われます。
人工衛星キット実習
そもそも人工衛星キットとは、本来ミッションごとにオーダーメイドで作られる人工衛星をある一定の機能を持たせて組み立てるだけにまとめたものです。
これが実習で使う小型衛星キットで組み上がっている状態から分解しながらそれぞれの機能の試験を行い、また組み上げていきます。
実習の目的としては、コンポーネント仕様にもとづいた機器(機能確認モデル相当)が仕様通りに出来ているかの確認をし、衛星に必要な基本機能の実機確認、関連する基本的な試験項目の実施です。
結論から言うと、仕様通りにはなっていないので、その不備を試験を通して報告することも実習の内容になっています。
衛星キットの付属品として、キット意外にこういった物を使用して試験を行っていきます。
実習に使用したキットは上部に太陽センサが5つ、側面には熱制御系と太陽電池パネル、内部には一番下から電源ボード、CDH(コマンド&データ処理系)ボード、通信ボード、姿勢ボード・リアクションホイールで構成されています。
人工衛星という精密機器なので、手袋を着用して、静電マットとバンドをつけて作業を進めていきます。
キットを全て分解してそれぞれのボード、パーツに分けて電源ボードの試験から取り掛かります。
【電源ボード】
・バッテリ受入試験
・電源系受入・評価試験
・太陽電池セル受入試験
・電源基盤と太陽電池セルの結合
・統合電池サブシステムの運用状態評価
電源ボードに対しての通電の確認や、6個ある太陽電池パネルの性能評価や全てのパネルがパフォーマンスを出せているかの試験を実施。
太陽電池パネルの直列、並列の組み合わせで試験を行い、どのパネルがダメになっているのか突き止めたり、光の光量だけでなく、光の当たる角度によって発電量が変わることの確認試験を行いました。
【CDHボード】
次に電源ボードにCHD(Command and Date Handling)ボードを連結させて試験を行います。
このボードでは、人工衛星へのコマンドの保持・分配を行い、テレメトリの収集・保持フォーマット化・時刻管理、衛星が適切に動作するか監視制御しています。
・受入及び評価試験
・温度センサ動作確認
・電源系統合後の運用評価
電源ボードと接続しているので、PCからのコマンドでボードのLTEライトのON/OFFの操作、人工衛星から送られてくるデータの更新頻度の管理、人工衛星内部の時間設定などが可能になります。
側面パーツに取り付けられている温度センサーの計測結果の確認など行いました。
【通信ボード】
人工衛星と、地上局間の双方で通信することが必要なので、周波数、可視頻度、データ量、通信速度、通信距離など確認しなければいけません。
・通信系受入評価試験
・通信系の統合試験
通信系ということで、アンテナの感度をPCから確認します。
アンテナのある無しでの数値の違いを測定して試験します。
【姿勢制御ボード】
ミッション・システムの要求姿勢を達成するために必要な項目です。
姿勢安定度、姿勢指向精度、姿勢マニューバなど人工衛星の姿勢制御のための項目を試験します。
・姿勢制御受入試験
磁気トルク抵抗測定、太陽センサ抵抗測定、リアクションホイール動作確認
・姿勢制御ボード動作確認試験
姿勢制御を行う上で、何を起点に制御を行うかによって試験も異なります。
今回は、磁気トルクと太陽を起点とした姿勢制御のために、センサーの抵抗値を測定して試験しました。
太陽センサーについては、仕様書にもとづいた数値を測定していき、仕様書のミスを報告しました。
人工衛星は基本的には太陽電池で電力をまかなうので、太陽パネルを太陽に向ける必要があり、その場合太陽センサーを頼りに姿勢制御を行います。
他にも、ミッションのために、地上の観測が必要な場合は、地球にカメラを向けるために磁気トルクで姿勢制御を行う必要があるので、この姿勢制御はかなり重要な項目です。
最後に全体試験を行うために、全て組み上げて試験を行います。
上の画像はリアクションホイールを回転させ、姿勢制御を行う動作確認です。
元々正常に動くようになっている物ではあるのですが、今回の実習用に仕様書が書き換えられていたりはありましたが、機能確認モデルとはいっても基板の全てが精巧に作られていて、電子回路や電力関係に知識が足りなすぎることを実感しました。
人工衛星はどんどん小型化が進んでいて、CubeSatは10cm×10cm×10cmのサイズからなりますが、中身の仕組みとしては今回の実習で使用したものと変わりありません。
小型化の利点は、全体的な開発費用、開発期間の削減と、打ち上げ費用の削減が挙げられますが、使用することができる電力にも制限があり、さまざまなことを緻密に計算しなければいけなくなります。
これまでは、主に人工衛星のミッションに目を向けていましたが今回の実習を通して、バスシステムの中身についてもっと学んでみたいと思うようになりました。
衛星開発実験室見学/衛星通信実習
午後からはBチームと入れ替わりで、衛星開発実験室の見学と衛星通信の実習に参加しました。
少し座学を受けた後に、実際に小型人工衛星の開発を行なっている研究室に行って、教授からさまざまな説明を受けます。
小型人工衛星だけではなく、CanSat(上空3kmからの落下試験衛星)などの説明を受けたり、実際の研究ルームを見せて頂きました。
実験室としては、振動試験と熱真空試験の装置をそれぞれ見学しました。
これは振動試験の装置で小型衛星に振動を与えて試験を行います。
もちろん耐衝試験でもあるのですが、人工衛星に必ず必要となるのが共振の確認です。
全ての物体には固有振動数があり、この固有振動数と共振してしまうと壊れてしますので、それを避けるために搭乗するロケットの固有振動数が情報として開示されているので、それを避ける試験を行います。
熱真空試験の装置では、実際の宇宙空間に近い環境を再現して試験を行うことが可能で、温度と真空状態を同時に検査できます。
宇宙空間での熱については、太陽の影響で-150℃から120℃くらい変化します。
また、先の実習でもありましたが、電力を使用することで内部に熱が発生しますが、真空状態では放射で熱を放出するしかないので、その試験も行われます。
この、熱真空試験の装置はオーダーメイドでかなりの高額となり、どこにでもあるようなものでは無いです。
そのほかにも試験装置がありますが、3Uまでの小型人工衛星であれば、名古屋大内の設備利用の相談は可能とのことでした!
衛星通信実習
研究室の見学から戻って、最後の実習に取り掛かります。
衛星通信実習では、アメリカ海洋大気庁が運営している気象衛星NOAAの観測です。
NOAAの動きは常に観測されているので、実習の時間内に日本上空を通過するNOAA-19を観測することになりました。
観測方法としては、ホイップアンテナというアンテナと受信機、設定するためのパソコンと繋ぐためのオーディオケーブルです。
NOAA-19から発せられる電波を受信してモールスを受け取る実習なのですが、対象の時間の最大仰角という通過する角度が3度でほぼ地面スレスレで観測するには厳しい条件で、結果としては残念ながら受信はできなかったのですが、簡易的な装置で人工衛星からの受信が可能になるのには驚きました。
名古屋大学の屋上からの観測実習でしたが、今回の簡易装置とは別に、CubeSatとの通信で使うアンテナもありました。
今までは知識としての人工衛星に触れていたので、実習に参加することで、より実物に近い経験を積めたことと、実験を間近に感じることができて視野が広がりました。
もちろん、昨今賑わっている人工衛星データの活用方法や人工衛星自体の提案も重要ですが、それ以外にもビジネスチャンスは広がっているし、課題も山積みなんだと感じたので、今後の宇宙ビジネスの広がり方や浸透の仕方がより楽しみになりました。
民間における宇宙利用2週間基礎コースを実施して頂いた名古屋大学にも、このプログラムを推し進めてくれた田中先生、山岡先生、講習を行なってくれた講師の方々には本当に感謝です。
いけだのような文系出身者にはとても貴重な体験になりましたし、実習に参加したことで、全履修を完了することができました!
もし次回が開催されるならぜひ皆さんにも参加して欲しいと自信を持ってオススメできるコースです!