宇宙ビジネスMEDIA編集長の池田 真大(いけだ まさとも)です。
前回の『大樹町宇宙交流センターSORA -北海道十勝管内大樹町での取材-』でも触れさせて頂きましたが、今回の記事は大樹町の宇宙開発について、大樹町役場航空宇宙推進室の西尾係長にインタビューさせて頂きました!
大樹町の宇宙開発について、これまで歩みとこれからについてお聞かせ頂きましたので、この記事を読んで大樹町に行けばあなたは『ちゃんと分かっている人』と思ってもらえるはず!

大樹町のこれまでの取り組みの紹介と、西尾係長へのインタビューの2部構成なので、極力まとめて書いたつもりが結構な読み応えになってしまったのでご覚悟ください!

 

大樹町について

知らない人もいるかもしれないので、まずは大樹町についての説明です。

大樹町は北海道十勝総合振興局南部にある町で、人口は5,447人です(9月末時点)。

官民一体となって「宇宙のまちづくり」を進めている町です。

最近ではインターステラテクノロジズ社のロケットの打ち上げで様々なメディアで取り上げられて注目を浴びていますが、実はそれよりも以前から宇宙開発に取り組んでいる町なのです!

 

これまでに歩みを紹介します!

大樹町のこれまでの宇宙開発の歩み

1984年

北海道東北開発公庫(現日本政策投資銀行)が北海道大規模航空宇宙産業基地構想を発表

 

1987年

北海道新長期総合計画の戦略プロジェクトの1つに「北海道航空宇宙産業基地構想」が組み込まれ、大樹町が候補地に選ばれる

 

1988年

宇宙の町へ向け「大樹スペース研究会」が設立される

 

1992年

文部省宇宙科学研究所が大樹町で初となる「グライディングパラシュート実験」を実施

※ヘリコプターからグライディングパラシュートを搭載した、ペイロード部を落下させて、飛翔を制御し、あらかじめ決められたターゲットに誘導する実験です

 

1993年

文部省宇宙科学研究所が、小型ロケットによる超音速パラシュート実験を実施

※パラシュートを搭載した小型ロケットを発射し、超音速状態でパラシュートを放出し、開傘状態を記録しています

 

1995

航空宇宙産業基地構想実現の第一歩として、大樹町多目的航空公園が竣工し、長さ1,000m×30mの転圧滑走路が整備される

 

1998年

1995年に完成した転圧滑走路を舗装改良し、LA-4(YS-11機)までの荷重に耐えうる構造にし、航空宇宙の実験場としてさらに幅広く利用ができるようになり、科学技術庁航空宇宙技術研究所と宇宙開発事業団が、HOPE着陸航法基礎実験を実施

※YS-11とは2006年まで運用されていた旅客機です。

※HOPE(H-II Orbiting Plane)は上記2機関が研究開発していた再利用可能な無人宇宙往還機で日本版スペースシャトルとも呼ばれていました。

 

2000年

無人宇宙実験システム研究開発機構が、USERS高空落下試験を実施。USERS宇宙機はSEMとREMから構成され、REMはSEMから切り離され大気圏に再突入するREMが地球に帰還する際および養生に浮遊している間に使われる回収系の機能・性能を評価・確認するための実験を実施した。

※USERS(Unmanned Space Experiment Recovery System)

※REM(軌道上で実験を行う機器を搭載し、地球に帰還するリエントリモジュール)

※SEM(軌道上で電力供給や軌道および姿勢制御を行うサービスモジュール)

 

2002年

CAMUI型ハイブリットロケットの最初の技術実験気が大樹町美成地区で行われ、同年CAMUI型ロケット開発の中心組織である北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)が設立された

※HASTIC以外にも北海道大学や、北海道工業大学などの北海道内の大学、植松電機をはじめとする北海道内の民間企業によって開発が進められています。

 

2004年

成層圏プラットフォーム定点対空飛行試験を実施しするために、飛行管制塔、格納庫、気象観測装置などが整備される

 

2005年

北海道に宇宙産業を興す事、北海道から世界に通用する小型衛星を発信する事、小型衛星技術の他産業への波及による経済効果をもたらす事を目的とする北海道衛星株式会社が旧大樹町駅舎に開業

 

2007年

防衛省技術研究本部航空装備研究所が、次期固定翼哨戒機エンジン試験を実施。

エンジンの音圧などを測定する「音圧レベル試験」と大型送風機からエンジンに横風をあって性能を確認する「横風試験」などを実施した

 

2008

大樹町とJAXA(宇宙航空研究開発機構)が連携協力協定を締結し、多目的航空公園のうち、JAXA所有施設を大樹航空宇宙実験場とし、大気球を用いた宇宙科学実験を皮切りに多くの実験が実施される

2011年

堀江貴文氏が創業したSNS株式会社が大樹町で小型液体燃料ロケットの打ち上げ実験を開始する

その後、2013年に同社のロケット開発部門となるインターステラテクノロジズ株式会社(IST社)が大樹町の芽武に事業所を開所する

 

2012年

株式会社IHIエアロスペースが開発し、大樹町で各種関連実験が行われた「i-Ball」のデータ受信が多目的航空公園で行われ、大気圏再突入時のデータ取得および写真撮影を行い地球に帰還するという世界初の快挙を成し遂げた

※重さ21kg、直径40cmの球体で、写真撮影の為の丸い撮影用窓が付いているので、Eye(眼球)を連想させるので、i-Ballと命名された。

 

2013年

多目的航空公園にて行われた「超薄膜高高度気球の飛翔性能試験」で、高度53.7kmまで上昇し気球到達最高高度の世界記録を樹立した

 

2014年

展示室、集会室を兼ね備えた「大樹町宇宙交流センターSORA」が多目的航空公園内にオープン

2015年

宇宙ステーション補給機「こうのとり(HTV)」に搭載し、宇宙空間で得られた実験試料を地球で送る為の、小型回収カプセルの高空落下試験が実施された

※2011年にスペースシャトルが退役してからは実験試料を持ち帰る手段はソユーズのみとなったが、持ち帰れる量は1機あたり60kgの制限があった為、小型回収カプセルの開発が進められていた。

 

2017年

IST社が観測ロケット「MOMO」の打ち上げ実験が行われる

 

2018年

宇宙交流センターSORAに就学旅行や研修の際の工作体験や講演会、イベントに対応できる集会室を増築し、展示スペースも拡張・回収して展示内容の大幅なリニューアルが行われる

 

IST社の「MOMO」2号機の打ち上げ実験が行われる

 

2019年

IST社の「MOMO」3号機が最大高度113,4kmまで到達し、日本初の民間企業単独での宇宙空間到達を達成した

 

2020年

PDエアロスペース株式会社による新型無人機「PDAS-X06」の地上滑走試験が行われる

※PDAS-X06は宇宙飛行機を目指す為の実験機で高度10kmを飛行可能な無人機。

 

 

これまでの大きな歩みを紹介しましたが、他にも多くの航空宇宙活動を行なっています。

もっと詳しく知りたい方は大樹航空宇宙構想をご覧ください。

そんな大樹町の魅力を大樹町役場企画商工課航空宇宙推進室の西尾係長にお話し聞きしました!

 

西尾係長にインタビュー!

(池田)

よろしくお願い致します。

まずは大樹町のアピールポイントを教えてください。

 

(西尾係長)

よろしくお願いします!

アピールポイントは東と南に海が開けている立地ですね!

その環境がロケットの射場や航空宇宙の産業に適しているので、新たに射場を作ろうとしていますし、これからは『大樹町』という環境で勝負していこうと思っています!

 

1984年の北海道東北開発公庫が発表した、海道大規模航空宇宙産業基地構想で道東の大樹町周辺が東と南に海が開けているので、航空宇宙の基地に適しているということで、翌年の1985年頃から大樹町としても航空宇宙基地を誘致する活動を始め、1987年に北海道新長期総合計画に組み込まれてからは更に加速して、これまで35年間活動を続けてきました!

 

(池田)

かなり前から航空宇宙の活動をされていたのですね!

不勉強で恐縮なのですが、私もインターステラテクノロジズ社のロケットの打ち上げのイメージが強かったので、これまでの活動をお聞きして驚きました!

 

(西尾係長)

そうですね。大樹町航空宇宙センターSORAに来られる方も「堀江さんのロケット」だということで来られる方が多く、35年活動をしているというとこを知らない方が大半ですね。

だからこそ、これまでの長年の活動もアピールポイントだと思っています!

 

(池田)

これまでの35年間の活動の中で、特に知って欲しい事柄を教えてください。

 

(西尾係長)

一番大きいのは、1995年に大樹町多目的航空公園を作ったことですね!

最初は土を押し固めただけの転圧式でしたが、全長1,000mの滑走路を整備し、その3年後の1998年には全面舗装をし、今の状態の滑走路が完成しました。

滑走路を整備した理由は、日本版のスペースシャトルと言われるHOPE(H-IIA Orbiting Plane)の実験場として、JAXAの前身である、NASDA(宇宙開発事業団)とNAL(航空宇宙技術研究所)に大樹町が選ばれ滑走路を整備することになりました。

そこから様々な実験が行われているので、航空宇宙活動の大きな第一歩となっています。

 

ロケットについては、インターステラテクノロジズ社による打上げが行われる前は、北海道大学の永田教授が中心となって開発しているCAMUIロケットが、2002年から打ち上げ実験を行っているなど、インターステラテクノロジズ社による打上げ以前から大樹町内でロケットの打上げ実験が行われています。

 

あとは、JAXAと連携協力協定を2008年に締結し、JAXAの大樹航空宇宙実験場が多目的航空公園に出来たことも大きいです!

大気球実験については日本で唯一、大樹町で行われているということも大きなポイントです。

※科学観測用大気球とは飛行機よりも高く、人工衛星よりも低い高度に長時間滞在する唯一の飛翔体として用いられています。

 

(池田)

今後の宇宙開発についての展望や予定はどのようになっていますか?

(西尾係長)

新たな射場を建設して、北海道にスペースポートを作ろうという大きな目標である、北海道スペースポート計画が進められています!

将来的には一般に開かれたロケットの射場を作るのと、3,000mの滑走路を整備して、宇宙往還機であるSpace Planeの離発着場になるところまでを目指しています。

当面は、インターステラテクノロジズ社が打ち上げるロケット「ZERO」が2023年に打ち上げ予定となっているので、それまでに射場の整備を完了させる予定です。

 

(池田)

スペースポート計画はいつ頃に完成しそうですか?

 

(西尾係長)

明確な目処は難しいですね。

スペースポート計画は企業版ふるさと納税を財源に計画をしていて、企業版ふるさと納税の募集期限が、2025年3月31日となっていますが、計画自体が壮大なのでどうなるかはまだ未定ですね。

 

(池田)

そうですよね。かなり大規模なプロジェクトだと思っています。

大学の実験なども多いと思うのですが、大樹町と大学の協力関係も強くなっているのですか?

 

(西尾係長)

そうですね。今年、2020年に室蘭工業大学と協定を結んでいて、教育分野でも協力してもらえることになっています。ちょうど10月19日に大樹町に室蘭工業大学のサテライトオフィスが開業することになっています。航空公園での実験のほか、インターステラテクノロジズ社との共同研究が行われています。

その他だと電気通信大学や東海大学は毎年実験をしに多目的航空公園に来て頂いています。

 

(池田)

急なのですが、西尾係長の普段のお仕事内容などお聞かせください!

 

(西尾係長)

今は新しい射場を作る関係で、各種調整や打ち合わせが多くなっています。

あとは、多目的航空公園の管理や航空公園の利用調整などの対応です。

ごく稀にSORAにいることもあります!

 

(池田)

大樹町もロケットの打ち上げなどでメディアに取り上げられたりしているので、今後打ち上げを見たいという人も多くなると思うのですが、観客席などは準備しないのですか?

 

(西尾係長)

できれば準備はしたいです。

ただ、お金もかかるので、簡単には動けないのが現実ですが、企業版ふるさと納税で整備する枠には入ってはいるので、準備したい気持ちはあります。

あとは時期と予算との相談になりますね。

 

(池田)

西尾係長オススメの打ち上げを見るオススメの場所を教えてください。

 

(西尾係長)

インターステラテクノロジズ社が用意している『スカイヒルズ』が一般に開放されれば有料の観覧席ですが一番見やすいですね。

他に一般公開している箇所はないので、打上げ時には路肩に駐車する方もいるのですが、通行の支障となるので、警察と連携してパトロールをしているので、絶対に行わないでほしいです。

※スカイヒルズ

射点(発射台)から約4,000mの場所にある会場で、大樹町内で唯一射点を目視できる場所です。

打ち上げ見学イベントとして入場料(打ち上げ協力金)がかかりますが、会場内限定のグッズ販売や、ISTスペシャルグッズの抽選会、ロケット開発のトークショー、モデルロケット制作・打ち上げ体験など行われます。

過去の設定ですが、大人(18歳以上)5,000円、小人(18未満)2,500円、小学生未満は無料です。

 

今年からインターステラテクノロジズ社で事前に海を監視するためにセスナ機を飛ばし始めたので出来なくなったのですが、去年は多目的航空公園の中に人を入れて見るイベントを開催し、延べ4,000人ほど集まったので、実施すれば人が来てくれる手応えはありますね。

(池田)

打ち上げの際は、危険防止のための立入禁止区域なども設定されますし、無人を確認するためのパトロールも厳重に行われるので、こっそり隠れていたり、私有地に入ったりの観覧は厳禁です!!

大樹町ではパブリックビューシングも行なっていたりするので、今後の打ち上げ見学の時は、事前にリサーチが必要ですね。

池田はスカイヒルズの申し込みをしようと思います!

西尾係長多岐にわたるお話を聞かせて頂きありがとうございました!

あとがき

大樹町については池田もインタビューさせて頂くまではインターステラテクノロジズ社のロケットの打ち上げのイメージが強かったのですが、多目的航空公園SORAに訪問させていただき、ガイドの沼田さんにこれまでの大樹町の航空宇宙開発について説明して頂き、大樹町役場航空宇宙推進室の西尾係長にこれまでの歩みと、これからの展望を聞かせて頂き、詳しく知ることができました。

今後もロケットの打ち上げだけではなく、航空宇宙開発において重要な実験が多く行われるはずですし、スペースポート計画からも目を離せないですね!

取材をさせて頂き、ますます大樹町が好きになりましたし、これからも関わらせて頂きたいと強く感じました!

記事を読んで頂いている皆さんも、北海道を訪れた際は大樹町のロケット発射場と多目的航空公園SORAに足を運んで頂き、大樹町のこれまでの歩みを感じてください!

おすすめです!!

 

大樹町HP:

https://www.town.taiki.hokkaido.jp

 

大樹町への企業版ふるさと納税についてはこちらから

https://www.town.taiki.hokkaido.jp/soshiki/kikaku/uchu/kigyoufurusato.html